日本に会社を経営していれば、法人税などの税金を支払う義務が生じてきます。
海外にも税金を払う義務があるのですが、海外にも子会社を設立しようとする場合は、「移転価格税制」というものを知らなければ、二重に税金を支払うことが起こってきます。

そこでここでは、移転価格税制ができた背景やどのような企業が移転価格税制の対象となるのか、またどんな時に余分に税金を払わなければいけないのかなど、移転価格税制の基礎知識を初心者でもわかるように解説します。

簡単な事例に基づいて解説をするので、初心者にもわかりやすくなっています。

移転価格税制が生まれた背景

かつて企業が支払う税金は日本では高めなので、税率が低い国に子会社を作って取引をし所得を移転して日本での課税を減らそうとする動きがありました。
それを防ぐために1986年にできたのが「移転価格税制」です。

例えば日本のある会社が取引先から100円で原料を仕入れ、それを加工して日本で200円で海外の子会社に売ったとすれば100円の利益に対して35円の税金がつきますが、日本の親会社から200円で仕入れたものを海外の子会社が現地で300円では販売したとすれば100円の利益を得ることになります。
日本で100円の利益があれば税金は35円になるところ、法人税の低い海外で販売されたものなので利益が100円でもその国に15円しか税金がかからないと仮定すれば、会社全体としては日本での税金35円と海外での税金の15円の合計50円を支払うことになります。

しかし自社で加工した商品の価格は自社で自由に決められるので、日本での税金を少なくするために海外の子会社に150円で販売して50円の利益にすることで日本の税金を17.5円にし、子会社が現地で300円で販売して150円の利益を得たとしてもその国は100円につき15円の税金なので150円の利益に対してかかる税金は22.5円となり、会社全体としても40円で済むのです。

このような操作を行った企業が多く出てきたために移転価格税制が生まれたのです。

移転価格税制の仕組み

移転価格税制ができた理由となる会社の操作が、税制ができたことによってどのように変わるのでしょうか。

日本の親会社が取引先から100円で仕入れたものを加工して海外の子会社に200円で販売すれば、利益の100円に対して35円の税金がかかります。
この200円で子会社に販売するというように親会社が子会社に販売するのに決めている価格は、「独立企業間価格」といわれています。
しかし35円もかかるのは高いということで海外の子会社に150円で販売をし利益を50円とすると税金が17.5円で済むようにした場合に、移転価格税制が活用されます。
移転価格税制は、税金を安くするために企業間で海外に安く販売しても、元の独立企業税制が採用されるということです。
つまり150円で子会社に販売して利益を50円にしても元の200円で販売したとみなされて、100円分の利益に対する35円が日本で支払うことになります。
150円で販売して50円の利益しかないのに、35円も税金にかかってしまったら企業の利益はほとんどなくなります。
すると税金を安くするためにした行為がかえって税金を増やし利益を減らしてしまうことになるので、企業はこのような操作ができなくなるわけです。

移転価格税制の対象と計算方法

移転価格税制に適用される対象となるのは、日本に会社があって海外に子会社や取引先があるケースですが、その中で日本の会社の50%以上の株式や資産保有をしている関連者、または日本の法人から派遣している役員や取引で日本の法人と支配従属関係にある場合が適用対象となります。
これらは国外の関係者なので「国外関連者」といわれます。

「国外関連取引」というケースもあり、国外関連者と行う取引のほとんどが該当し、日本の親会社が海外の子会社に販売することも「国外関連取引」に含まれます。

独立企業税制に則らずに、税率の低い国で利益を多く得ようとしたことで追徴課税が徴収されたり二重に税金を納めなければいけないことが発生してきます。
そのためには移転価格の設定を適正にする必要があります。

移転価格を適切にする計算法としては、国外関連者以外への販売時も独立企業間税制と同等にするという「独立価格批准法」と、非関連者の販売する場合と企業内で販売をするときの総売り上げを同じにする「再販売価格基準法」、親会社の売上高総利益率を算出して仕入れ先の原価から国外関連者に販売する額と仕入れ先から非関連者に販売する額を同じにする「原価基準法」、それに「取引単位営業利率法」の4つがあります。

まとめ

移転価格税制とは日本の法人税が高いのでもっと税率の低い海外に子会社や取引先を作り、海外で利益を得て税金をおさえようとする企業が増えたためにできた税制です。
そのような企業が増えてきたら安い海外にばかり税金が支払われ、日本の税収が減ってしまう可能性があるからです。

成立後は、日本の企業が海外に子会社を作る場合に適正な取引価格を設定しておかないと、税金が追徴されたり二重に支払わなければいけないことになります。
対象となる企業は、移転価格税制の仕組みやどうすれば多く税金を支払うことになるのかということなどの基礎知識を知っておくことが必要です。